もう一度、赤ちゃんに会いたい。けれど、また失うのが怖い。
流産後に次の妊娠を考えた時、この二つの気持ちは同時に存在します。「次へ進みたいのに怖い自分はおかしい」「夫婦のどちらかが待ちたいと言ったら、もう気持ちがないのだろうか」と責めなくて大丈夫です。
僕たちの場合は、流産の後に僕自身が病気になり、射精できない時期がありました。性行為をしようとしても、そこまでたどり着けない時もあった。次の妊娠をいつ目指すか話し合う以前に、本当にもう赤ちゃんはできないかもしれないと思っていました。
その後、医師と相談して薬が変わり、また射精できるようになりました。そして、気がつけば妻が妊娠していた。うれしいはずなのに、最初に大きくなったのは喜びではありませんでした。
また失うかもしれない。その恐怖の方が強かったのです。
- 身体的に妊娠できる状態と、心が次の妊娠を受け入れられる状態は別です。
- 夫婦の準備が同時に整わなくても、愛情や子どもを望む気持ちが足りないとは限りません。
- 「いつ再開する?」より、「何があれば少し安心できる?」から話して構いません。
- 薬や性機能の変化は、根性や愛情で解決せず、処方医や必要な診療科へ相談する問題です。
今日、答えを出さなくても大丈夫です。再開する日を決めるより、二人とも無理をしない条件を決める。そこからで十分です。
流産後、次の妊娠が怖いのはおかしくない
流産を経験すると、妊娠は「うれしい未来」だけではなくなります。検査薬の線、産婦人科の待合室、超音波検査、心拍を確認する日。以前なら期待につながったものが、「また同じことが起きたら」という記憶も連れてきます。
次の妊娠を望んでいても、妊娠そのものが怖くなる。妊娠が分かっても、手放しでは喜べない。それは矛盾ではありません。一度知ってしまった喪失の可能性から、自分を守ろうとする反応でもあります。
こども家庭庁の支援者向け資料でも、流産や死産の後、すぐに次の妊娠を考える人もいれば、次の妊娠に慎重になる人もいるとされています。次の妊娠について話されること自体を負担に感じる場合もあり、希望は人によっても、時期によっても変わります。
日本産科婦人科学会の一般向け解説では、流産後の短い間隔で妊娠しても流産率が高まるとはされておらず、妊娠を避ける期間を一律に設ける必要はないと案内されています。ただし、処置後の経過、持病、検査や治療の内容は人それぞれです。身体面の再開時期は、インターネットの一般論ではなく主治医の説明を優先してください。
そして、医学的に「妊娠してよい」と言われることと、今すぐ妊娠したいと思えることも別です。待つことを選んでも、間違いではありません。
僕たちは「妊活を再開する」以前の場所にいた
流産の後、僕自身の体調が大きく崩れました。病気の治療中、射精できなくなった時期があります。夫婦生活を持とうとしても、思うようにできないこともありました。
「次はいつにする?」と選べる状態ではありません。僕の中では、次の赤ちゃんを望むかどうかより先に、もう子どもを授かれないのではないかという不安がありました。
性の話は、人に言いにくいものです。男性としての自信、妻への申し訳なさ、病気への焦り。いろいろなものが重なります。けれど、射精できないことを妻への愛情と結びつけたら、二人ともさらに苦しくなります。
僕の場合は、医師と相談して薬が変わった後、また射精できるようになりました。しばらくして、計画を立てて身構える間もなく妻の妊娠が分かった。もちろん、これは僕個人の経過であり、薬を変えれば同じようになるという話ではありません。
薬や病気による性機能の変化が疑われる時は、処方した医師に「将来、子どもを望んでいる」「性機能に変化がある」とそのまま伝えて構いません。必要に応じて産婦人科、泌尿器科などにも相談します。恥ずかしさから服薬を自己判断で中断すると、元の病気を悪化させることがあります。
身体が戻る時期と、心が戻る時期は別
流産後の「再開」には、少なくとも二つの意味があります。性行為や妊娠を身体的に再開できること。そして、再び妊娠する可能性を心が受け入れられることです。
出血や痛みの経過、処置後の回復、持病や薬、主治医からの説明。医学的な確認が必要です。
妊娠を考えると強い不安が出るか、診察や周囲の妊娠を受け止められるか、今は待ちたいか。
二つの準備は、同じ日に完了しません。身体が回復しても心が追いつかないことがある。反対に、気持ちは次へ向いていても、身体の経過を待つ必要があることもあります。
片方だけを見て「もう大丈夫」「まだ駄目」と決めると、自分の感覚を置き去りにしてしまいます。
再開の判断は、四つの準備で考える
全部が完璧になる必要はありません。ひとつでも不安が強ければ、そこを先に支えます。
「準備不足の人」を探すのではなく、二人に今必要な支えを探します。
夫婦の温度差は「子どもが欲しいか」だけでは測れない
妻が「まだ怖い」と言い、夫が「そろそろ考えたい」と言う。表面だけを見れば、子どもを望む強さに差があるように見えます。
でも、その奥には別の不安が隠れています。
妊娠する側に起こりやすい怖さ
身体の中で再び何かが起きる怖さ、診察台へ戻る怖さ、仕事を調整する負担、期待した分だけまた傷つくかもしれない不安があります。
パートナー側に起こりやすい怖さ
また相手を支えきれないかもしれない無力感、自分の年齢や性機能への焦り、時間を空けるほど機会を失うのではという不安があります。
もちろん、男女が逆になることもあります。妻は早く次へ進みたくても、夫が流産の場面を引きずり、性行為を避けることもあるでしょう。
「子どもが欲しいなら、なぜできないの」「愛しているなら、なぜ待てないの」と問うと、奥にある怖さはますます言えなくなります。聞きたいのは意思の強さではなく、今、何が一番怖くて、何があれば少し安心できるかです。
妊活再開を話す時は、答えを急がない順番がある
次の妊娠の話は、一度の会議で結論を出さなくて構いません。むしろ、結論から入るほど「賛成か反対か」に分かれやすくなります。
話してよい日か確認する
「今日、次の妊娠の話をしても大丈夫?」と聞きます。話題にする許可から始めます。
医療上の事実だけをそろえる
主治医に確認したこと、次の診察、薬や身体の状態を共有します。ここでは気持ちの結論を求めません。
怖いことを一つずつ話す
「また失うのが怖い」「年齢が気になる」「性行為がプレッシャー」と、自分を主語にします。
再開日ではなく、守る条件を決める
無理な日は中止する、通院に同行する、妊娠の話をしない日を作る。二人が守れる小さな条件を決めます。
次に話す日だけ決める
「次の診察が終わった週末にもう一度話す」と区切ります。今日の保留を、永遠の拒否にしない工夫です。
どちらかが泣き止めない、責める言葉が増える、過呼吸や強い動悸が出る、性行為を承諾させる話になっている。そんな時は結論を出さず、いったん止めてください。妊娠を望んでいても、性行為への同意はその都度必要です。
セックスや射精の変化を、愛情の問題にしない
流産後の妊活では、性行為が「二人の時間」から「次の妊娠のための行為」へ変わりやすくなります。排卵日、回数、成功したかどうか。そこへ病気や薬の影響が加わると、できないことが失敗のように感じられます。
僕にも、性行為をしたくないわけではないのに、身体が思うようにならない時期がありました。もう子どもはできないかもしれない。その不安を口にすること自体が怖かった。
この時、相手から「私のことが嫌なの?」「子どもが欲しくないの?」と言われたら、性の問題と夫婦の問題が一つになってしまいます。反対に、本人が恥ずかしさから黙り続けても、相手は理由が分からず傷つきます。
診察で性機能のことを話す時は、「射精できない」「勃起を保てない」「性欲が大きく変わった」「将来、妊娠を希望している」と、起きていることを具体的に伝えます。夫婦のどちらかが代わりに結論を決めるのではなく、本人と医療者が治療上の選択肢を確認してください。
再び妊娠した後も、安心はすぐには戻らない
妻の妊娠が分かった時、もちろんうれしさはありました。でも、それ以上に「また失うかもしれない」と思いました。
流産を経験する前なら、妊娠が分かった瞬間から未来を思い描けたかもしれません。けれど、一度失った後は、次の検査を越えるまで、その次の診察を越えるまでと、安心を先送りにしてしまいます。
妊娠後に不安が強い時、「今回は大丈夫」と断言して安心させようとしなくて構いません。結果を保証できない言葉は、本人を孤独にすることがあります。
代わりに、「怖いよね」「次の診察まで一緒に過ごそう」「今夜は妊娠の検索を休もう」と、今日の時間に戻します。診察への同行や、医師へ聞きたいことのメモも、現実的な支えになります。
妊娠を喜べない自分を責めなくていい
喜びと恐怖は、どちらか一つではありません。赤ちゃんを望んでいるからこそ、失う可能性が怖い。心拍を確認できても、妊娠週数が進んでも、以前の記憶が消えないことがあります。
不安で眠れない、食事が取れない、日常生活や仕事に支障が出る、診察前後の苦しさが強すぎる時は、産婦人科へそのまま伝えてください。自治体の相談窓口や心理職など、夫婦の外の支えを使って構いません。
今日決められない時に使える、夫婦の言葉
気持ちがまとまってから話そうとすると、いつまでも話せないことがあります。まとまっていない状態を、そのまま伝える言葉を用意しておくと少し楽です。
ここで大事なのは、相手を納得させる完璧な説明ではありません。今の答えが「分からない」でも、次に話せる関係を残すことです。
時間が、必要なだけの時間を与えてくれる
だから、焦らないで。
今の僕が、流産の後に立ち止まっていた二人へ伝えるなら、この言葉です。
時間がたてば必ず妊娠できる、悲しみが消える、という意味ではありません。待つことをきれいな物語にしたいわけでもない。
ただ、今日決められないことを、今日決めなくていい。身体が思うようにならない時に、自分を壊してまで前へ進まなくていい。怖さを抱えたまま妊娠したら、無理に明るく振る舞わなくていい。
僕たちは、計画どおりに次へ進んだわけではありません。もう赤ちゃんはできないかもしれないと思った時期があり、思いがけず妊娠が分かり、喜びより先に恐怖を感じました。
それでも、二人の時間は続いていきました。
妊活を再開する勇気だけが前進ではありません。今は待つと二人で決めることも、医師へ相談することも、怖いと口にすることも前進です。
流産後の夫婦へ、あわせて読んでほしい記事
流産後の次の妊娠・妊活再開でよくある質問
流産後は、いつから妊活を再開できますか?
一般的な解説だけで決めず、処置後の経過や持病、服薬を知る主治医へ確認してください。日本産科婦人科学会は、一律の避妊期間が必要とはしていませんが、身体の状態は個別です。また、医学的に再開できても、心がまだ怖いなら待って構いません。
夫は再開したいのに、妻は次の妊娠が怖いと言います
説得から始めず、「次の妊娠の話をしても大丈夫?」と許可を確かめてください。「いつならできる?」ではなく、「何が一番怖い?何があれば少し安心できる?」と聞きます。待つ期間を約束させるより、次に話す日だけ決める方が負担を減らせます。
妻は妊活を再開したいのに、夫が性行為を避けます
子どもを望んでいないと決めつけないでください。流産の記憶、また支えられない怖さ、性行為へのプレッシャー、病気や薬による性機能の変化が隠れている場合があります。「したくない理由」ではなく、「今、何が怖い?」から聞いてみてください。
病気や薬の後、射精できなくなりました。どうすればよいですか?
薬を自己判断で中断・変更せず、処方医へ性機能の変化と将来の妊娠希望を伝えてください。必要に応じて泌尿器科や産婦人科へつないでもらいます。射精できないことを、愛情や男性としての価値の問題にしないことも大切です。
妊娠できたのに、うれしいより怖いです
流産後の妊娠では、喜びと恐怖が同時にあって不思議ではありません。無理に喜ぼうとせず、次の診察までの過ごし方や不安が強い日の支え方を夫婦で決めてください。生活に支障が出るほど不安が強い時は、産婦人科へ相談してください。
次の妊娠について話すだけで喧嘩になります
その日は答えを出さず、話題にできる状態かだけを確認します。「今日は結論を出さない」「10分で終える」「怖いことを一つだけ話す」と範囲を狭くしてください。夫婦だけで難しい時は、医療機関や自治体の相談窓口など第三者を頼って構いません。
日本産科婦人科学会「流産・切迫流産」
こども家庭庁「流産・死産等を経験された方へ」
こども家庭庁「流産や死産等を経験した女性等への心理社会的支援」支援者向け資料
American College of Obstetricians and Gynecologists「Repeated Miscarriages」
流産後、次の妊娠が怖いのは、赤ちゃんを望んでいないからではありません。大切だったから、また失うことが怖いのです。
身体のことは医師へ。怖さは夫婦で一つずつ。性機能の変化を愛情のせいにしない。今日決められなければ、次に話す日だけ決める。
それで十分です。時間は、止まっているように見える時にも、二人へ次の時間を渡してくれます。